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Live Wire [646] 19.6.21(金) 奇跡の再刊!奇書『蜂工場』をディープに読み解く

奇跡の再刊!奇書『蜂工場』をディープに読み解く


そもそもこの作品が最初に邦訳された1988年といえば、サイコホラー全盛で、一般社会の内部に巣食う「異常者」の恐怖が、時代の気分として共有されていた時期。それまでは、人間世界の「外部」から押し寄せてくる「モンスター」か、物欲や栄達に関する「悪意」を抱いた人間の「犯罪」が、恐怖であった。
しかし、この時期にクローズアップされた、サイコホラーの犯罪者たちの動機は、金や出世が目的ではない。「壊れた」内面を持った「理解不能の異端者」が、一見普通人の顔をした「隣人」として社会に紛れ込んでおり、もぐらたたきのように突如襲いかかってくるという恐怖を描いている。
経済成長によって都市生活が一般化し、隣人が何者かをよく知らないのに成立する社会の「関係の希薄さ」をその背景に抱えた、「時代に密着したホラー」感覚だった。
しかし、一方で「サイコ」扱いされた「怪物」の描き方は、一部の作品を除いて非常に稚拙だったとも思う。他人を攻撃したり収奪する「動機」が、すべて「精神の病」に求められており、まるで「精神を病んだ者」は全て怪物化すると言わんがばかりの、稚拙な設定の作品が多かった。
ドラキュラや狼男、あるいは巨大サメや怪獣に代わる「脅威」としてそこに置かれただけの、便利で目新しい「怪物」としての雑な設定しか為されておらず、彼らが背負った認知の歪みや苦痛が、攻撃性や犯罪行為に転じてしまう「不幸」がきちんと描かれていなかったからだ。
精神病者も人である以上、社会や周囲の人との齟齬には魂の苦痛を抱える。無論それが、攻撃性に転ずることもあるだろう。だが、そのメカニズムをブラックボックスにして解明できないのでは、人間性の軽視、作者の怠慢と言われても仕方ないだろう。実際そういう安易な作品が増えて、ブームは終焉した。
代わって世を席巻したのは、一般人が病によって「否応なしに」怪物化するゾンビアポカリプスだった。もうここでは、脅威となった隣人の心の揺れや苦痛すら問題にされない。「わけ解んない」理由で化物になってしまう隣人が、集団で襲ってくる恐怖の前では、細やかな加害側の動機追求など必要なくなる。
その、雑で、被害者意識だけが突出した感覚こそが、ゼロ年代以降共有されるホラー感覚だと思う。そして、アフターゾンビ時代のサイコサスペンスが、「サイコパス」という動機無用の便利な“小道具”によって、“イヤミス”に変化して命脈を保っているのは、特筆に値する変化ではないか。


さて、ここでようやく『蜂工場』の話になる。この作品の特異な部分は、主人公の精神の歪みが「どこからくるのか」に対して、非常に緻密に向き合ったことにある。主人公は、常軌を逸した動物虐待や、事故に見せかけた尊属殺しを繰り返す、典型的な「サイコ野郎」だ。
その趣味の悪い残虐描写が作品冒頭から延々続く。多少グロ趣味の勝ったファンなら喜ぶかもしれないが、正直その語りはサスペンスを削ぐほどねちっこく、また謎めいた行動も一貫性がなかなか見えてこないので、リーダビリティは非常に低い。語り自体も偏執狂的で、読解に一苦労するほどめんどうくさい。
だが、このもったりと粘った粘着質の語りと、読むだけで偏頭痛を呼ぶような「狂人の語り」こそが、この作品の最重要ポイントなのだと思う。このテンポの鈍さは、「訳のわからないことをする狂人」の精神の裡を理解するための純正なリズム――作者がその内面を丁寧に言語化した結果なのだ。
この精神の泥濘は、繰り返される主人公のオブセッション(強迫観念)の波で次第に明らかに洗われていく。ときに荒ぶり、ときに静まる語りの浮き沈みの中で徐々にその奥に眠る「狂人の正気」が見えてくる。単に物語の都合で綺羅びやかにでっちあげられた振る舞いではなく、必然を伴った迷妄なのだと。
丁寧にこの語りに付き合った読者だけが、物語の終局で、この狂った主人公がなぜ「斯くあらねばならなかったか」を共有することができる。その解明はなかなかにトリッキーで、ミステリ的な伏線回収の快楽も伴うものである。非常に緻密な技法的を実験作であり、語り/騙りの極限に挑んでいると思う。
リチャード・ニーリィやバリンジャーのような記述トリックミステリとして読んだ場合、語りの構造解明のカタルシスがメインだが、この作品の場合、むしろ主人公の行動の謎や境遇を「理解」したのち、逆に広がるヴィジョンがあり、物語の見え方が解き明かされた後の再読がまた楽しい。
その意味では主流文学としても読み得る強度があると思うし、四半世紀を超えて再刊された意義もあるはず。実際、三田格さんの解説によれば、英本国ではポップミュージシャンたちのリスペクトも高く、クラッシックとしていまだに売れ行きが落ちないらしい。イベントも、その奥行きを示すために企画した。


したがって、今回の『蜂工場』イベントはSF、ミステリファンはもちろん、ガイブン系の読み手に注目していただければと思っている。風間賢二さんという稀代の海外文学・ホラー研究家を迎えて、80年代後半集中紹介されたきり全貌がまだ定まっていない、イアン・バンクスの位置付けについても知りたい。


その意味で、読みの参考になったのが、ふくろう @0wl_man さんのブログ。【『蜂工場』は、こうした「僕が考えた最強の呪術」の極北かもしれない】とする読みは、『蜂工場』受容の非常に面白い視点の一つだと思う。
マコーマックやボラーニョ、コージンスキーとただならぬ顔ぶれと並べて遜色ないのが『蜂工場』の強度か。一方、僕は最近出たノンフィクション『神は、脳が作った』を連想した。呪的思考、オカルトや宗教の概念を生み出すに至る精神の働きも、本作の重要テーマであると思う。
その意味では、もう一作リンクして考えると面白いのはウィリアム・ゴールディングの『蝿の王』。漂流少年たちが集団の圧力の中で形成していく原始宗教的な信仰と、本作の主人公が、蜂の集る時計の文字盤に託したオカルティックな野生の思考は、かなりの部分通底すると思う。
その意味で、先ほどのふくろうさんのエントリが、作品背景となるスコットランド北部インヴァネスの神秘的な光景を語っておられるツィートも非常にアツい。作品理解の一助として、ぜひご参照を。


[出演] 野村芳夫(翻訳家:『蜂工場』訳者)、三田格(音楽評論家:『蜂工場』解説)

[ゲスト] 風間賢二(ホラー評論家、翻訳家)

[日時] 2019年6月21日(金) 開場・19:00 開始・19:30 (約2時間を予定)

[会場] Live Wire HIGH VOLTAGE CAFE
     東京都新宿区新宿5丁目12-1 新宿氷業ビル3F (1F割烹「いちりん」右階段上がる) (Googleマップ)
    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分
    ・丸ノ内線・副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分
    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分
 
[料金] 1500円 (当日券500円up)   (前売り終了しました。当日券あります)

終演後にフリーフード&フリードリンクの懇親会を開催します(約2時間。出演者は参加できない場合があります)。参加費は3500円です。懇親会参加者には、入場時にウェルカムの1ドリンクをプレゼント。参加希望の方はオプションの「懇親会」の項目を「参加する」に変更してお申し込みください。参加費も一緒にお支払いただきます。
 
※懇親会に参加されない方は、当日受付時に別途1ドリンク代500円が必要となります。(2ドリンク購入の場合は100円引きの900円とお得です)
 
※ご注文者には整理番号をメールでご連絡します。
 お申し込み時に住所をご記入いただきますが、チケットの送付はいたしません。
 当日会場受付にて、名前、整理番号をお伝えいただければ入場できます。
 
※お支払い後のキャンセルは一切受け付けませんのでご注意ください。
 
※銀行振り込み決済の締め切りはイベント前日午後3時、カード決済の締め切りは当日午前0時です。
 


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